2017年11月16日木曜日

Anastasia

11月のブロードウェイはちょうどシーズンの入れ替わりで、昨シーズンの作品が終わったばかりだけども、それと交代する新作はまだ準備中かプレビュー中という、ミューオタを悩ませる時期である。


まず細かいことを語る前にこれだけ言わせてほしい。


ラミンが見れなかったーーーーーーーーーー。ラミーーーーーーーーーーン


※ラミンとはお顔、身体、声と三点そろったイラン系カナダ人のスーパースターです

※史上最も人気のある怪人の一人で、クラシックからロックまで何でも歌える超人なのでとりあえず彼をいれておけば、ショーの質があがる感があります。

11月をもって、降板することが決まっていたラミンを観れる貴重なチャンスに滑りこだと思ったんですが、その日はunderstudyが代打しており、イランの誇る美声が聴けなかったのは大変口惜しかった。でも、切り替えます。12月には日本コンサートにくるので。もちろんチケットぽちってるので。


もう一度だけ、言います。


ラミーーーーーーーーーーーーン


はい。気が済んだしたので、通常レビューに戻ります。


Anastasiaは97年に上映されたアニメ作品を原作としている。今回なぜこのショーを観に行くことにしたかといえば、理由は極めてシンプルで、小学生の私はこのアニメ作品の大大大ファンだったのである。バスで1時間以上かけて通学していた私は、当時から音楽ジャンキーで、一番好きなテープ(そう、当時はカセットテープです)がAnastasiaでした。好きすぎて、いまでも持っているくらいです。





そんな腹の底から好きなスコアなので、もちろん音楽はとてもよかった。多少順番や歌詞を変えていたけれど、それも違和感がなかったし、元の音楽コンテンツはうまく料理されていた。物申すとすれば、新しく足された曲目が少し完成度として霞んでしまったように思う。その点、同じくアニメ原作のアラジンなどは、元の作曲家(名匠アラン・メンケン氏)がついたことで、新曲も含め、全体をプロデュースが成功したのだが、Anastasia はどうしても継ぎ足した部分の完成度のムラが否めないかなというきがした。電車シーンの"Traveling Sequence"や、パリの"Land of Yesterday"などはうまくはまっていたように思う。あと、エンディングの名曲At the Beginning が完全カットされてたのが残念。カーテンコールでもいいからかけてくれればいいのに!

キャストの歌唱力も素晴らしかった。特に今回発掘された新人さん、アナスタシア役の Christy Altomareは、とても伸びある声でありながら、イノセントな印象も残しており、ハマり役だった。今後も純粋な少女役に期待できる。


あとは満足度が高かったのがアンサンブル。本作、キャスト人数は決して多くなく、ロマノフ一家から、人民、軍部まですべて10人ほどでこなしていたのだが、コーラスが10人とは思えないほどの厚さであった。特にロシア風の曲のときには、このコーラスの重さがしっかりでていたことでまとまりが出ていた。


さて、音楽と歌唱面からレビューを始めましたが、この作品は「小規模予算の舞台作品がどう試行錯誤するか」という観点で見たときにとても面白かったように思う。去年Dear Evan Hansenというオフブロードウェイあがりの低予算作品がシアター界を席巻したことからもみられるように、ミュージカルは最近ますます「お金をかければ良い」という世界ではなくなってきている。そんな作品がどんな戦略を打って万年戦国時代のブロードウェイを勝とうとするかはとても興味深い


残念ながら制作費をネット検索からは突き止めることはできなかったが、Anastasiaも使っている劇場、プロデューサー陣、キャスト陣などからして、そんな小規模予算の作品の一つであることは察しがつく。そんな作品の難しさは予算を均等に分配できないことにある。潤沢にない予算をどこに重めにふるか、そんなセンスと手腕に問われるのだ。そのため、凸凹感がある、それが低予算作品の特徴である。


Anastasiaにおいてはキャストや衣装はきちんとコストがかけられている部分であった。キャストは幸い(?)男女の主演が若いという設定だったので、イキがいいけれども、まだまだ売り出し中の(言ってしまえばコスパが高い)2人を中心に、ベテラン勢も粒ぞろいであった。おそらくキャスティング料が圧倒的な高いラミンを筆頭に、助演クラスが手堅く、Vlad 役のJohn BoltonとLily役の Caroline O’Connor のおじさまおばさまが際立ってよかった。なによりコメディシーンの質がたかい。コメディは実は高級感を出すのが一番難しいというのが、私の持論であり、下手するとすぐ「安っぽさ」が、でてしまう。その点若い2人はまだそこの経験が足りず、いくつかダイコンモーメントがあったのだが、このベテラン2人がいることで、作品としての安定感は一気に増していた。曲もこの2人がはいっていると、まとまりが全くちがった。Vivaベテランパワーである。


逆にここは予算薄いな、とかんじたのは振り付け。本作どの役職をとってもプロデュース側にもビッグネームはいないのだが、それにしても振り付けはもう少しどうにかなったのではないかと思う。冒頭に帝政ロシアのロマノフ家の晩餐シーンがあるのだが、そこの舞踏シーンが安すぎてちょっと、はじまっていきなりのダイコンモーメントにどうしようかと思った。ダンスルームシーンをやるのならば舞台版シンデレラくらいの本気が欲しい。あっちは完全なるフィクションであれだけ揃えてきてるのである、歴史物であるはずのAnastasia で帝室シーンにボロがでると、一気に作品がbelievable ではなくなってしまう。総じて、振り付けなしの曲が自然だったしいいかんじでした。ちなみに先に述べたDear Evan Hansenもほとんど振り付けがありません。低予算の場合はむしろそういう潔さもあってもいいのかなと思う。





低予算舞台における近年みられるもう一つの特徴として、テクノロジーによる制約克服がある。舞台世界にもイノベーションの波はきている。資金面の制約を技術で乗り越える試みが最近よくみられるようになり、面白い時代になってきていると思う。Anastasia はなんといってもCGとプロジェクションなしには語れない。最近ミュージカル界(特に韓国系)で人気のプロジェクションの活用だか、本作は今まででみたことないほどにデジタル映像の活用が多かった。どのくらい多かったかというと物理的にでてきたセットが、机、イス、などの家具と、鉄道の車両内セットくらいである。特に屋外シーンは全てが背景スクリーンといっても過言ではない。
なんというかもはやメディアミックスに近いというくらい装置が映像で代替されていた。サンクトペテルブルクの大聖堂や、パリのエッフェル塔、鉄道で逃げるシーンで窓の外を走る景色、これら全て映像で表現されていた。

これまで観てきたプロジェクション映像はそのシーンにプロジェクションを使うこと自体に意味をもたせていたが、Anastasia において、はじめてプロジェクションであること自体の意味は透明な映像活用手法をみた。


おそらく好みが出るとおもう。特にオールドスクールな古典好みな人たちは、ディズニーランドのショーみたい、なんていうだろう。でも、ブロードウェイで同時にライオンキング、アラジン、ノートルダム、アナ雪、を公開しようとしているような市場環境の中で、むしろミュージカルがどこまでエンタメショーと本当に違うんだという気もする。私はセットを作る莫大な予算を持たずしても作品を世に出せるようになった、技術革新は歓迎したいなと思う。見てるときの違和感でいえば、アバターのときは超賛否両論だった3Dももはや、まったくもって「普通」になったじゃない?多分制作側の使い方の慣れと、観てる方の慣れの問題です。


今回は少し興行的な観点から作品を語ってみました。Anastasia は総じて大劇場のスター作品にはないような凸凹を楽しむ作品である。「ここがこんなに卓越しているのに、ここなんでこんなになっちゃったんだ?」なんてシーンも含めて満喫するのが乙。とりあえずミューオタにとって最も大事な楽曲が鉄板なのでそれを安心感に、スタートアップ・ミュージカルともいうべきこの作品はトライしてほしい。結局は引っかかる所のないまん丸の「優等生ちゃん」な作品よりも、こういう作品の方が案外クセになってしまうのが舞台のおもしろさだと私は思う。


プレスコール動画(ラミン含)。キャストの伸びやかな声がとてもよい