2016年1月13日水曜日

Book of Mormon

ロンドン、ウェストエンドでBook of Mormonを鑑賞してきました。2015年、サントラにはまった作品No.1! ずっと生を鑑賞できる機会を探していたミュージカル。




Book of Mormonは控えめにいっても、モルモン教とアフリカの途上国を馬鹿にした作品だ。そのあらすじはこんな具合。

「若い頃、世界に飛び出し、2年間の宣教に派遣されるモルモン教徒。若きモルモン2人は、希望を胸に楽しみに赴任地の発表を待つ("Two by Two")。しかし、2人が行くことになったのはウガンダ。任地の村では民兵がのさばり、8割の人はエイズ患者だった("Hasa Diga Eebowei")。そんな中、熱心に教えををとくも、モルモンの信仰がウガンダの人々に何も響かないことに気がつく。また、説明しながら、"後世では信者一人一人に惑星がひとつもらえる"、"エデンの園はアメリカのミズーリ州ジャクソン群だった"等、盲目的信じてきた教典の言葉にも疑問の雲が覆うようになる ("I Believe")。2人はウガンダの人々の生活に直接響く言葉を考えるとともに、自らの信仰とも向き合う」

私は最初このあらすじを読んで全くと言っていいほど、惹かれなかった。偏見に満ちている気がしたし、下品だと思った。一方この作品は強豪を抑え、2011年にトニー賞9部門にノミネートのセンセーションを巻き起こしている。

「そんなに人気ならやはり光るなにかがあるのでは?」

と出来心でサウンドトラックを聴き始めたが最後、すっかりハマってしまった。ミュージカル本編を見る前から音楽にハマるなんてはじめてだった。

つまり、このミュージカルは,どうしてなかなか音楽が良いのである。
本作が「人をバカにしていない!実はもっと深いメッセージが!」
なんて擁護する気はさらさらない。しかし、音楽を聴くと、本作が嘲笑や皮肉はこめていても、誹謗中傷することが目的ではないことがわかる。これはストレートプレイでは成し得ない演出だ。その後音楽プロデューサーは「アナと雪の女王」の作曲家であると聞いて、深く深く納得した。相当な敏腕であることはいうまでもない。

ユーモアと、差別・イジメは紙一重である。その2つの間に線を引くのは、無知・無関心だ。扱う対象について、事実誤認や虚偽に基づく偏見を広めたり、本質的には関係ないのにも特定の社会的特徴と結びつけたり(e.g. xx教徒は皆暴力的だ、など)することは無知や無関心からくる行為だ。それは瞬時に相手と自分に線を引いてしまう。しかし、Book of Mormon に出てくる主人公はなんとも可愛らしいのである。観客は彼らを遠ざけるどころか、愛されキャラとして、大事にしたくなる。公演がはじまってから、今に至るまで、主要キャストや関係者のところにはモルモン教徒から一通も抗議文は届いていないそうだ(その後、オラフの声としてブレークした、助演Elder Cunningham 役の Gad はインタビューで 「稽古をしてるときは、”この公演がはじまったら、いつか刺される”と思っていた」と笑いながら答えている)。

私もこの劇を知ってからはモルモンについてもっと興味が出た。先日なんと家のそばで2人の若い宣教派遣中の信者に会い、チラシをもらったときは「うわーーーー!本物のモルモン!」とちょっと嬉しくなったくらいだ。実際、モルモンの教会はしばらくすると、この劇のヒットに完全に乗っかって、パンフレットの広告欄を買って、"Now you've seen the play, the book is even better!"というキャッチまで載せたくらいだ。また、無知からくるただの下品な作品にならぬよう、プロデューサー2人は、とても綿密なモルモンについてのリサーチをした上でこの台本を書いている。彼らはこれをユーモアとして成立させるためにも、虚偽は書かないことを徹底していたそうだ。あくまで、モルモン教徒の教えからの興味深い部分の引用で本作を成立させている。誤った内容を書くことでユーモアが損なわれないように細心の注意を払っていたと。

それから、キャストについて少し。本作はそのストーリーやノリがとても、アメリカンなゆえ、観賞前はロンドンキャストだとどのような印象になるのか、興味と不安が半々くらいだった。実際、イギリス人がやるのと、アメリカ人がやるのとでは、「信心深い若者」のイメージが違っていて面白いなと思った。イギリスキャストは、みんな色白、もやしっこ、神経質そうな感じがすごい。内輪で盛り上がるあの雰囲気も含め、オタクっぽい。一方、オリジナルのアメリカ版の演出のモルモンの青年はもっと過度に健康的で活動的。イメージ的には、ファストフードのCMやスポーツジムの広告のあの、目が爛々としていて、笑顔すぎてちょっとこちらが引く、みたいなかんじ。どちらもそれぞれの国での「宗教に没頭する青年」のイメージを反映しているきがして興味深かった。ロンドンは、Elder Cunningham役の方が、Elder Priceに比べ歌も演技も抜群にうまかった。あの、多動性オタクのかんじが本当にツボにどハマり。主演のElder Priceは、どうしてもBW初演と比べてしまい、先に述べた彼の健康的にラリったかんじの演技と圧倒的歌唱力を知ってしまうとなかなか、それには及ばなかったかな。嬉しい驚きは、5年前にWicked でエルファバ役をみて素晴らしい!とおもった女優を今回、主演女優としてみれたこと。そうして、言わずもがなだが、みんな演技が抜群にうまかった(顔芸もすごい)。あんなに会場が揺れるほど観客が笑うミュージカルははじめてだ。


と、ここまで言った上で再度述べるけれど、本作はやはり高尚な作品ではまっっったくない。簡単にいえば、歌うクレヨンしんちゃんレベルのユーモアである。ミュージカルファンよりもお笑いファンに進めたいくらい。

しかし、結局人の溝を埋めるのは小難しいディスカッションよりもユーモアの方が力強いと思っていたりする。宗教や信仰という難しい話題を扱いながらも、スレスレのバランスでメッセージをコミカルに伝えたプロデューサーと作曲家は本当に只者ではない。真似できるものではないし、すればただただ大やけど負うような、綿密で大胆な作品である。自分の日常に「やってらんねぇ!」とおもった時の処方箋にしたいミュージカルだ。


オープニングナンバー "Hello"

"I Believe"