ここ最近観た舞台のなかで一番スカっと爽快感がある舞台といえば、圧倒的にSIXだと思う。私が初めてSIXの音源に出会ったのは2020年。仕事で死にたくなるようなことが起きて、プライベートまでズタボロになったとき、ミュージカルの曲をサブスクサービスに勧められるがままに聴いていたら流れてきたのが、Ex-Wivesだった。
元嫁ってなんか妙に生々しいタイトルだし、なんだかその表現自体、その女性を過去の夫に基づいて定義しているようで、すこし悲壮感やムカムカ感がある。でも、その「元嫁」が元々持つ語感を一蹴するように、バチクソにかっこよい曲だった。メンタルが荒れてた私はその頃自分でつくったムカつく事があったときに聴きたいミュージカル曲というプレイリストをつくってそればかり聴いていたのだが、中でももっともヘビーにループしてたのがSixのEx-Wivesだった(もう一曲はMean GirlsのI'd Rather Be Me)。
セットはバンドも含め舞台に全員をのせてるライブ形式
そんなSixはその曲名からも、バチクソにかっこいい曲調からしても意外だが、歴史もののミュージカルである。歴史ものは、ミュージカル、ひいては舞台において定番のジャンルだ。有名どころでいえばエリザベート、ハミルトン、モーツァルト!その他にも歴史ベースのフィクションまでいれればMiss SaigonやAllegienceあたりもその範疇にはいってくる。事実は小説より奇なりとはよくいうが、ほんとにその通りとしか言いようがなく、歴史が紡いだドラマはそれがフィクションとしてはむしろ嘘っぽく思えるくらいに時に強烈だ。そんな定番かと思えた歴史ものというジャンルに一石を投じたのがSIXだと思う。
Sixは英国のヘンリー8世の時代を描いた話。
それも彼の6人の妻の視点から振り返るものだ。
そう、これは彼女たちが歌うとおり、His-toryではなく、Her-story。
数々の女性と浮名を流し、結婚しては妻を処刑してたヘンリー8世というクソ男をこき下ろして、彼女たちにスポットをあてる舞台である。
これが本当に痛快ですばらしい。
まず演出としてはこの舞台はライブ形式だ。劇中では歌がセリフの一種とされるミュージカルにおいてはめずらしくマイクは手持ちで、うしろにこれまたオール女性バンドをしたがえて、観客を煽りながら歌っていく(このライブ形式なる演出でほかに有名どころはおそらくHedwig and the Angry Inch)
そのため、まず一般的な作品より観客とダイレクトに対話をしていく形式で、その上アゲアゲなノリなのでシンプルに観ていてテンションがあがる。ジャンルとしてはロック、POP、R&Bで、普通のビルボード上位曲を順にきいていくかのようなキャッチ―で聞きやすく、現代の私たちの生活にスッとはいってくるような曲調ばかり。それもそのはず、キャラクターは見た目も含め、現代を代表するポップスディーバを模してつくりこまれている。
Catherine of AragonはBeyoncé
Anne BoleynはMiley Cyrus
Jane SeymourはAdele
Anna of ClevesはNicki Minaj
Katherine HowardはAriana Grande
Catherine ParrはAlicia Keys
がモデルだとか(にしてもヘンリーはキャサリンて名前の女好きすぎである)
上記の歌姫さまさま全員が同じバンドの前で一斉に歌うなんて豪華すぎるイベント、それこそグラミー賞でも、スーパーボウルハーフタイムショーでさえ実現できない。
そんなQueensが共演するんだから、ハモリはつよつよ、地声はパイプの様に太く、たまにスっとオケがぬけてアカペラで歌う箇所もお腹ごと震わせるような力強さである。衣装もスパンコールとスタッズだらけのバッチバチのギッラギラ。そんな世紀のライブならぬ5世紀の時を超えたライブがSIXの醍醐味だ。
そして、Her-storyの触れ込み通り、この作品は女性、さらにはもっと広く虐げられてる層、マイノリティーをぶち上げてくれるエンパワー系作品である。
まずとにもかくにも口が悪い。例えばEx-Wivesでは「ヘンリーのブツなんてくそみたいにちっちぇーのに、その話をするやつをするとかマジでいないよな!」と今にも中指をたてんばかりの権幕で歌うラインがあったりする。それはいわば、毎日イラ立ち、不満、やるせなさを感じながらもそれらを唇をぎゅっと噛んで押し殺している私たち観客のフラストレーションを代弁してる。彼女たちが叫びあげるセリフのような不満を直接感じたり、声に出そうとおもったことがなくとも、目の前で拳を突き上げて、ヘンリーをつるし上げる彼女たちを前に、しまい込んでいた自分の隠れたイライラがグイっと喉から引っ張り出されて、つっかえがとれるような爽快感がある。彼女たちは私たち全員のためのヒール役をやっている。
だからどんなに口が悪くてもこの作品は下品ではない、めちゃくちゃに口が悪いのに品性とプライドを感じる。それがたまらなく気持ちがよいし、かっこいい。
ちなみに観た後に調べていて知ったのだが、Sixの脚本・作曲はToby Marlowというノンバイナリーのゲイの方と、Lucy Mossという女性がやっている。どちらも制作当初、ケンブリッジ大に通う20代の学生で、Marlowは文学専攻、Mossは歴史専攻でフェミニスト批評を勉強していていた。これにはつい納得せざるを得ず、やはりこれは知性と熱意に裏打ちされたBadass BitchがつくるBadass Bitchのための作品なのだなとおもった。
人によってはSixの筋や演出はわかりやすすぎるし、安直と感じると思う。
でも、そんなありきたりで、擦られたおしている言い草や悪態でさえ、SIXが示す不満の根本にある問題は全く解決されていない。この舞台の示す抵抗や反発がありきたりすぎるとしたら、そんなありきたりでアホみたいな抑圧もいまだ蔓延っているということだ。
だからやっぱりそんなわかりやすいポップスに乗せた、安直な反発に私はぐっとくる。
そうやって自分たちの気道をそっとつぶしてこようとする社会をグッとにらみつけて、蹴散らかすBad Ass Bitchになる元気とガッツをくれるから。
高く積み上げた品性をバチバチのスタッズと、めり込むように尖ったヒールに乗せて。
エリザベス女王在位70周年を祝したPlatinum JubileeでのSixのパフォーマンス。いまだに古臭いと昨今批判に去られている英国王室だけど、王様をこき下ろす曲を女王のためのイベントでやるんだから、やはり日本の皇室とは議論になっているオープンさのレベルが違うと思う
開幕の年Olivier賞を取った時のパフォーマンス
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