2019年10月10日木曜日

加盟国はお客様、となりの機関は競合他社ーコンサルモデルとしてみる国連ー

国連で働いていると、普段の私たちは各国に対して指導的立場でかかわり、超国家的な権力で秩序を築いているという印象を与えていることが多いらしい。それは、おそらく本や、授業、世界史や時事で出てくる国連が人道的介入のような形で行動している事例が多いからなのではないかと思う。
もしくは、一国の開発の話であっても、「xx国さん、もっとこうした方がいいよ、ほらここはやってあげるからさ」なんて言いながら介入している光景が想像されるからかもしれない。このイメージが完全間違っているかというと、そういうわけではないのだが、実際に働いていると、国連はもっとずっと小役人というか、平たく言えば下請け業なのである。私は前職は日本で省庁や公共団体の仕事を下請けするコンサルだったのだが、国連の仕事や立場というのは、私の前職の公共コンサルと酷似している。心機一転!といって転職したはずだったので、なんだが笑える話である。

この話、「国連業界」の業界人は当たり前のようにすぐ受け入れてしまう話なので、私もあまり疑問にも思っていなかったのだが、話すたびによく驚かれるので、今日は少し、国連というビジネスモデルについて話してみたいと思う。

国連は大きくわけて、財源を3つもっている。1つは、分担金。毎年、加盟国が定められた額を払うものである。もちろん額は国のステータスなどによっても違う。カードや学会の年会費、くらいにおもってくれればよい。2つ目は募金。これはレジ脇においてある募金箱のようなものから、法人がCSRのために行うようなより大きな額のものまで含み、要は国に紐付いていない出資。3つ目は、ある加盟国が特定の国でプロジェクトを実施するために国連に下請けとしてお金を出す場合である。

ほとんどの人がこのうち1つ目しかおそらく知らず、リマインドされて、あー、たしかに募金箱ある、となり、3つ目に関しては聞いたこともないと、というところだと思う。でも、実際ほとんどの国連機関では3つ目の財源が半分以上を占める。ユニセフなどは2つ目の募金が大の得意なので、その割合は機関によっては違うものの、大抵のところが多い順に下請けマネー→分担金→募金だろう。うちの機関にいたっては財源の9割がこの下請け業によるものだ。国連とは多くの国が拠出した資金が財源としてプールされ、特定の国に紐付かないことで、国際益を実現しているという印象が強いと思うが、それは国連ビジネスのほんの一部の話である。そのため、ほとんどの仕事は特定の国から発注され、そのドナーの目的を達成するために実施される。

構造としては、前述のとおり、コンサル(やその他の公共調達等)と一緒で、特定国から、プロジェクトの公募がでて(これは全世界の国民だれでも見れるように公開されていることが多い)、それをみて、国連側が企画書をだして、コンペの結果、そのプロジェクトを受注し、実施するのである。いや、そもそも公共調達の世界や、コンサルの世界がなじみがないので、そんなこと言われても、って感じかもしれない。
さらにざーっくりと捉えると、例えば会社で営業やプロマネをやった経験がある人ならば、相見積もりと企画書をだして、自分が案件をとってきたり、または自分が発注側として逆に外注先にだしてもらって、業者選定をしたりすることは多いのではないかと思う。
要は、国連もそんなことをして仕事をとっているということである。

意外だろうか?

出稼ぎにいくまでの8か月間、私は本部にいたので、
いわゆる、経営企画のようなことをしていたのだが(これについては詳細は過去の投稿を参照)出稼ぎで現場(いわゆる支店)みたいなところに行ってみて、もうこの下請け業の世界にどっぷりになり、途端に仕事の中身が前職に酷似するようになった。

さて、ここまで下請け業とか、コンペとか、ビジネスモデルと言った言葉を使ってきたが、あなた方、民業じゃないじゃない!競合いないじゃない!と思った方もいるだろう。そう思いますよね。国連は唯一無二だし、コンペといいつつ、随意契約じゃないか、一社一本釣りなんでしょ?と思われるかと。

いや、それがですね。
うちの業界ものすごい競合が多いんですよ。
しかも市場は飽和状態で、競争は熾烈。

国連にとっての、競合他社、それは国連です。
ん?と思うだろう。
私自身もいまだ全体像を把握していないのだが、国連には40近くの機関と、それを超える様々な下部組織がある。100はないだろうが、ざっくりみつもっても60-80は独立して活動する機関や組織がある。下記は、国連の簡略な組織図。全体を網羅していないが、まぁ、なんとなくその規模感や複雑さはつかめると思う。

(出典:https://www.un.org/en/pdfs/18-00159e_un_system_chart_17x11_4c_en_web.pdf 

ちなみに先日国連総会でグテレス事務総長が、国連が230億円の赤字であり、資金が底を尽きた、という声明をだし、日本のメディアでも話題になっているが、これは、国連本部の事務局の予算に関する話である。いまから詳しく話すとおり、上記の機関のほとんどは国連本部からの予算分配はうけない独立採算であるため、この赤字の影響は直接はうけていない。いわば、日本で各省庁がそれぞれ財源をもっていて(共通国庫から財務省が分配するのではなく)、そのうち内閣官房だけ深刻な赤字になった、みたいなイメージである。

さて、冒頭で国連の三つの財源について話したが、これ、少なくとも一つ目の分配金については、一つの公庫にあつめられて、予算配分されていると思われる方も多いかもしれない。しかし上記の話からも分かる通り,国連本体に紐づいてる委員会や部署以外、機関はそれぞれすべて独立採算制です。そういう意味では国連は一社ではなく、財閥といったほうが近い。しかも、財源も、その獲得手段もみんな同じときている。
そのため、ある国が「プロジェクトの発注を公示」すると、その瞬間、UNDP、ILO、UNICEF、UNHCRが一気にみんな手をあげて、そのプロジェクト受注をめぐってみんなで競争することになるのです。国連では特に現職の事務総長の下、One UNとして、いまよりも効率性や、連携を目指しているが、それでも、このビジネスモデルが変わらない限り、結構限界もあるのではないかと思うのが正直なところだ。

例えば、アメリカが「労働について、SDGsの推進に資するプロジェクトを1.2憶円で1年間発注する」と宣言したとして、

  • UNDPは同国の多面的な貧困に資するプロジェクト形成を目指し、特に労働に焦点をあて、キャパビルプロジェクトをする、といい
  • ILOは民間セクターと連携しながら、エシカル・リクルーティングの推進を実施し、労働搾取を軽減する、と提案し、
  • UNICEFは同国で広く観察される児童労働に着目し、これの根絶にむけて、意識情勢のキャンペーンをする、と企画し、
  • UNHCRは同国の難民が労働市場で強く差別されている現実に鑑みて、難民の地位向上のため、制度上の改革を目指し、同国政府と省庁間ワーキンググループを開催する、などとアピールする、

などということが起きる。
それぞれの機関は、自らの「労働」についての強みを示し、同国でのプレゼンスと自分の機関のキャパシティを示した上、
自らが最もその1.2憶の労働プロジェクトをやるにふさわしいと提案する。
そして、その結果そのドナーの意向に最も沿い、信頼を勝ち得た国連組織が、そのプロジェクトを下請けされるのだ。
もちろん、そのプロジェクトの実施にあたっては、随所にドナーの「ブランディング」がされる。
これについては要求が年々厳しくなってきており、そのプロジェクトで作成される対外向けの資料、ウェブサイトなどはすべて「日本」「EU」、「アメリカ」等と大きくロゴとともに示され、中には、そのドナーの広報を行うためにTシャツ、ノートなどキャンペーングッズなどを作成するための特定の予算が確保されていることもある(私が派遣された某国オフィスにも日本の国旗が一面についたIDストラップやシールが大量に平積みされていた)。

国連は財閥全体としても、各機関の中でも不整合や重複が多いといわれるが、ビジネスモデルをみるとそれはなんら不思議なことではない。
国際益として最大公約数を実施できる部分はほんのわずかである。
ほとんどはある特定の一国ドナーの手足としてプロジェクトを実施しており、その無数の下請けプロジェクトの集合が国連をかたちづくっているので、
全体としての統合することは非常に困難なのだ。







さて、上記では自らの強みを示し、下請けされるにふさわしいと示すことができた機関こそが活動できるという話をしたが、個人のレベルとしてみても、コンサルがそうであるように、「仕事をとってこれる人」というのはこの手の下請け業の一つの「できる人」の定義だ。(ないがしろにされるのが“マネジメント”であるのもまた同じだが、この話はひとまずここではおいておく)

上述のようにドナーによってプロジェクトの発注をする場合、
まずはコンペが実施されることが公示され、同時にコンペのための応募要項と応募用紙が大使館や本省からまわってきて、それをにらみながら、せっせとドナー国の戦略や彼らにとっての優先分野、刺さる言葉などを使いながら、「この案件、うちに下請けだしてくれれば、こんなことできますよ」っとまさにコンペ資料を書くのである。
私の周りを見回すと、まだまだ民間から直接国連に来る人は少ないが、このコンペで仕事をとってくる型の職種にいた人は非常に国連の現場では重宝されるとおもう。
特に、官公庁との事業や補助金などに慣れていればなおさら(もちろん、公務員として審査する側もやっていた人も)私は、いわゆる人が想像するような「国際協力の現場の仕事」や「草の根支援」はしたことがない、東京のオフィスワーク歴4年半でこの業界に入ったくちだ。分野に固有の知識(e.g.途上国における若者雇用支援、人身取引被害者に対する直接支援などなど)はほとんど持っていないし、ハンズオンとよばれるようなオペレーションの知識もない。しかし、それでも「応援出張」という枠組みで現場にあえて派遣され、重宝されたのは、私が公的機関に対するプロポーザルを書きなれていたからだった。
どんなに難民支援がしたくとも、若者に活力を与えたくとも、資金がとってこれなくてはなにもできない。

二つの大戦が生んだ超国家的組織、世界の政府、というイメージが強い国連だが、
安保理の拒否権問題などを持ち出すまでもなく、
そのビジネスモデルをみるだけでも、国連がむしろ加盟国につよく従属しており、その国益実現の下請け先になっていることはよくわかる。
国連を巨大な財閥でありとして捉え、中にいるのは、全て同じ顧客をもった競合他社、と解釈すると、また見えてくるイメージや、ニュースから読める行間もかわってくるかもしれない。